パナソニックオープン大会レポート④ [最終日]
「クラブは人なり」の精神が、トーナメントを成功へと導いた。
一気に過ぎた濃密な1週間は、クラブに携わる人々を、また一回り、大きく成長させていた。
今年から兵庫・有馬ロイヤルゴルフクラブに舞台を移したパナソニックオープンは2024年9月22日、最終ラウンドが行われ、65をマークして25アンダーにスコアを伸ばした平田憲聖が、鮮やかな逆転優勝を飾った。
前日首位の清水大成は70で回ったものの通算22アンダーどまり。3打差の2位で涙をのんだ。
アマチュアの真鍋和馬(関西大学4年)は9アンダーの40位タイでフィニッシュ。
この大会がプロデビュー戦となった有馬ロイヤル所属の松本凌は通算4オーバーの62位に終わった。
トーナメントは大きなアクシデントもなく、大成功。
1987年以来の日本オープン開催に向けて、視界も大きく開けてきた。
今大会開催コースのトップである兵庫開発株式会社・大林功卓社長にとっても、特別な1週間だったに違いない。
その思いを、最終日の18番グリーンで聞いた。
優勝した平田憲聖が「さらに精進して、賞金王を取りたいと思います」と高らかにキング奪取宣言。
万雷の拍手を浴びて両手を突き上げるヒーローの姿を見ながら、社長の大林はしみじみとこう言った。
「よかった。また1歩、歩んだ感じです」。
それは日頃から「クラブは人なり」をモットーとしている大林が、スタッフたちに贈った最大級の賛辞でもあった。予想を次々に覆す異常気象と闘い続けたコース管理のスタッフ、選手たちをサポートした関係者や、ボランティアなどなど…。トーナメントに携わったすべての人々が、この経験を経てステップアップしたことは間違いない。
今回、名匠上田治の原設計のレイアウトに戻した。さらに3年間で3000本を伐採したことも、将来の夢へのワンステップといえた。1987年に開催した日本オープン。日本最高峰のトーナメントを再び開催するためにも、今大会を成功させる意味は大きかったわけだ。
遠い目をして、大林がコースの歴史に触れる。
「1972年に開場して今年、52年です。半世紀を超えて、パナソニックで11回目のトーナメントになりました。1972年にオープンして、まず1983年の関西オープンで脇田進さんが優勝し、85年の関西オープンが入江勉の優勝でした。87年に日本オープンです。中嶋常幸さんの3連覇がかかっていましたが、青木功さんの優勝でした。青木さんにお会いしに行ったら、その優勝を覚えてくださっていました。
その3年後、1990年からサントリーレディスですね。6回開催しています。それからコロナ禍でしたが2021年の4月に関西オープンをまた、開催しました。こうしてみると私たちのコースって、もともとトーナメントありきのコースなんです」。
今大会までに10回。多くのプロたちがこのコースを戦い、悲喜こもごものドラマを生んだ。そんなコースだからこそ、次の夢も描ける。
「11回目ですから、トーナメントと共に歴史を刻んできたっていうことも言えるんですね。メンバーコースとしてどうあるかみたいな2種類あると思うんです。メンバーとして楽しむべきなので、トーナメントはしないという方向もあると思うんですけど、有馬ロイヤルは当初からトーナメントの開催には積極的でした」。
大林の祖父である初代理事長の健良がこの有馬ロイヤルを作った時には
「伊藤忠の越後正一さんが名誉理事長でした。その後もサントリーの佐治敬三さんが理事長になられるなど社会的に認められた一流の企業人がメンバーにおられました」。
多くのメンバーが、トーナメント開催に前向きだった。
「やっぱり皆さんお元気な方たちなので、相当大変だと思うんですが83、85年と関西オープンをやって、87年に日本オープンと続いたんだと思います。当時はまだコースも10年目ぐらいなので、写真見るとまだまだ熟成してないんですよ。木も大きくなってないし。この3回で相当改造してます。その後サントリーレディスがあったんですが、その後20年以上開催しなかった」。
このブランクは大きい。2021年の関西オープンの開催経験はあるものの、この時はコロナ禍で無観客。多くのスタッフに経験値はなく、まさに多くの分野が手探り状態で準備を続け、トーナメント開催にこぎつけたわけだ。それだけに、大林が感じている喜びは大きい。
「私たちのキーワードは、『クラブは人なり』なんですね。これはもう佐治敬三さんが言われていたんですよね。おそらく松下幸之助さんの『企業は人なり』から来ているんだと思います。で、この意味が最近分かってきた。ゴルフ場って基本的にコースじゃないですか。コースが資産なんですけども、コースを作っているのは人。『コースの全てのサービスを維持しているのも設備ではなくて人だから、人がちゃんとしてこそだろう』ということで、挨拶などをすごくしっかりしていました」。
オープンしてから52年。パナソニックオープンの成功により、有馬ロイヤルの「クラブは人なり」の精神にさらに磨きがかかり、スタッフたちがまた一回り大きく成長したことは、確かなようだ。
平田憲聖 優勝
強い。平田が思い描いた通りの18ホールをプレーし、逆転優勝を飾った。
これで9月は「フジサンケイクラシック」、「Shinhan Donghae Open」に続く3勝目。このところ圧倒的な強さを見せつけて、この日も「関西で優勝したいと思っていた」狙いを現実のものとしてしまったのだから恐れ入る。
18番で行われた優勝セレモニーでも堂々の賞金王奪取宣言。
この分なら秋のビッグトーナメントでの活躍も期待できそうだ。
松本凌 最終日
所属先の有馬ロイヤルでプロデビューとなった松本だが、巻き返しをかけた思いが空回り。
スタートの10番でいきなりロストボールの憂き目にあいトリプルボギーと大きく躓いた。
続く11番ですかさずバーディーを奪い返したものの、15番のパー5でこの日2つ目のトリプルボギー。挽回への焦りが大たたきをよんだ格好だが、折り返してのアウトでは6番から3連続バーディー。
最終日は76に収めてホールアウトした。
「(トリプルボギーが先行して)取り返さなければならなかったんで…」と天を仰いだが「得たものもたくさんあった」とポツリ。
苦戦しながらも予選カットラインをクリアして、決勝ラウンドに進出した経験は、これからのゴルフ人生に必ずや生きるはずだ。
真鍋和馬 最終日
関西大学4年生で日頃から有馬ロイヤルをラウンドしているアマチュアの真鍋は通算9アンダーの40位タイでフィニッシュ。
「予選を通って9アンダーというスコアは良かったかな」と笑顔を見せたが、4日間トッププロとラウンドして課題が見えてきたのも事実。
「やはりグリーン周り。ショートゲームとパットがまだまだです」と厳しい表情に変わった。
だが朗報もある。10月3日開幕のACNチャンピオンシップ(三木GC)の推薦出場が決まった。プロを相手に堂々渡り合った4日間。
見つかった課題をクリアして、次戦は上位進出へとつなげたいところだ。
取材▪構成=日本ゴルフジャーナリスト協会会長▪小川朗
写真▪小中村政一