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パナソニックオープン大会レポート③ [大会3日目]

トーナメントを開催するということ。
それは大会に携わる人々すべてに、想像以上の経験値をもたらすものだ。
そのミッションが所属プロを鍛え、ハウスキャディーを育て、各部門のスタッフに自信をもたらし、メンバーたちとの絆は一気に深まる。それは人材育成、組織強化のドラマでもあった。

パナソニックオープン3日目は9月21日、有馬ロイヤルゴルフクラブで行われ清水大成が20アンダーで単独トップ。ツアー初優勝に王手をかけた。2打差の2位には、今季3勝の平田憲聖がつけている。
トーナメントもいよいよ大詰め。最終日前日に至るまでの舞台裏を、ここで追ってみる。

 

最終18番。支配人が味わった感動の中身。

バンカーからふわり、と上がったボールがグリーンにソフトランディング。ラインに乗ったボールは、まるで意思があるかのように転がり、カップに消えた。その瞬間、18番のグリーンサイドが「ドッ」と湧いた。歓声を上げていたのは、多くがこのコースのメンバーたちだった。
大会初日、最終ホールで第3打のバンカーショットを直接叩き込んだのは、有馬ロイヤルの所属プロ、松本凌。喜びを爆発させる所属プロのバーディーフィニッシュを、そこに居合わせたホームコースのメンバーたちも、我がことのように喜んでいた。
その光景を、感慨深げな表情で見つめていたのが有馬ロイヤルの支配人・山本良太だった。

しみじみとした口調で、山本が言う。
「所属プロとメンバーのこういう関係って、すごい素敵ですよね。そういう段階にうちも来たかな、と実感できました。高橋勝成プロがアドバイザリープロでおられますが、所属プロを持つっていうことは、これまで全然なかったんです。自分がメンバーのコースでトーナメントが開催され、そこにプロが出場して、一体感が生まれる。こういうメンバーライフ、素敵ですよね」。

さらに山本は、こう続けた。
「36ホールあって2060名という会員がいて、関西大学ゴルフ部の皆さんが何十年もキャディもやってくれて、メンバーさんともやっぱり触れ合う機会がある。それがまた循環して、卒業生の所属プロである松本凌がデビュー戦で応援していただける」。

大会を開催しなければ、得られない感動。そのきっかけは、コロナ禍の2021年に開催した関西オープンだったという。

「当時、大会を後援していたパナソニック社長の津賀(一宏=現取締役会長)さんと関係ができて今回のお話をいただき、もう2つ返事で(今大会を)やろうよとなったんです」。

関西オープン開催の経験値は関係したものには確かにあった。しかし開催時期は4月だったうえ、コロナ禍で無観客という事情もあり、十分とは言い難い。
 それだけに、一昨年の3月に開催が決まってからが大変だった。年々暑さが増している9月の開催は、準備を続ける山本たちの想像をはるかに超えたところで問題が続出する。

「(昨日このページでアップされた)グリーンキーパーの話じゃないですけど、こういう季節で開催なんだっていうのは、やっぱりもっと考えなきゃいけなかった。
でも(関係各所の)ご都合をいろいろお伺いしていると、共催の毎日放送さんはこの時期しかできない。各社の皆さんがそれぞれご事情がある中で、いいトーナメントにしようと動いているものの、いろんな絡みがあり、その辺の調整というのは本当に難しかった」とため息をつく。

 前出の「キーパーの話」である18番のテントがグリーンに近すぎ、通気性と日照が妨げられている件にも、複雑な事情がからんでいた。

「18番のテントの件は、6月のパナソニックレディーズで(グリーンに)近づけたのがすごく好評だったので、3月ぐらいの打ち合わせの時に近づけようという話をいただいていたんです。
それでキーパーも私も『全然構わないですよ』とそれを受けた。
でも、いざ9月になってみると(暑さと通気性の悪さは深刻で)『6月と9月とは、これだけ違うのか』となりました。先に経験していれば『こういう状況になるんで、もうちょっと話しましょう。いい大会するために』ということも言えたんでしょうけど」と悔やみつつ、こう続けた。

「駐車場の用地に予定していたところを9月になって見に行ったら、鬱蒼(うっそう)とした状態になっていたり(笑)。そこを整理するだけでも費用がかかるというのも想定外でした。こういうことを経験していくと、前もって除草剤にまいておくとか、いろんなことができる。トーナメント経験のないスタッフが多いものの、それぞれが体験したことで、経験値はグッと上がったんじゃないかなと思います」。

大会を開催することの意味。それは多くの意見がぶつかり合い、数々の調整局面を経ることで、スタッフひとりひとりの経験値が上がっていくこと。
未知の体験と直面し、工夫してクリアしていくことも得難いプラス要素だろう。それらはスタッフの実力を飛躍的に上げ、有馬ロイヤルの評価を大きく押し上げることにも直結する。

「今回の経験は2027年の関西オープンでノーブルコースという新しい違うコースでやるっていう挑戦に、確実に生きてくるはず」と、その言葉に期待を込めた。
多くのプラス要素を実感しているはずの山本支配人だが、営業面に話題が転じると、その表情は厳しさを増していった。

「トーナメント開催を、喜んでおられるメンバーさんばかりじゃない。やっぱりその後、いい状況でプレイしたいですし、そこは営業面もやっぱり考えていかなければいけない。7万4千人来場者ありますけど、今後はさらに今回の経験をしっかり収益に結びつけないと。経験値とかそういうのはとても得がたいものにいただいていますけど、それなりにやっぱり費用がかかっているのでこれを入会だったり来場だったり、実際の売上につなげていかないといけないというのは絶対に外せないんです」。

ゴルフ場の支配人。そこに集まる声は、耳触りのいいモノばかりではない。

「毎日反省会があって『ここまでしかできなくて申し訳ない』という言葉に対して『どうしようもないよ』って言ってくださる方もいらっしゃれば『もうちょっとできるんじゃないか』っていう声もある。淡々とそう語る山本支配人は、仮にトーナメントが成功裏に終わったとしても、その後にやってくる大会開催を売り上げ上昇につなげるという、新たな課題とも向き合わねばならない。
支配人という仕事。確かにキビシー。

 

経営企画部長・伊藤孝則はキャディーマスター出身。

今回、ハウスキャディー17人が、出場選手のキャディーとしてともに戦っている。
本番に向けて、キャディーたちの育成と準備に当たったのが経営企画部長の伊藤孝則だった。
その伊藤、3年前の関西オープン開催時には、キャディマスターという立場だった。

「でもその時は無観客でハウスキャディーは使わないという形でした。だから観客が入ってハウスキャディーを出すというのは本当に初めてでした」。

それだけに開幕を迎えるまでの道のりは平坦ではなかった。

「経験したことがないことがたくさんあった。前回のサントリーレディースは30年とか前になってきますから、経験者がほぼいない。教えられる人間もいないし、どんな感じなのかっていうのもわからない。本当にプロキャディーさんをよんで研修したりとか、グリーンの勉強会を増やしたりとか、ルールの勉強会をしたりとか、そういう準備をしてきました」。

まさに手探り状態で、キャディー教育は進んでいった。

「その中でキャディー達も最初は本当に不安で、『大変じゃないか』とマイナスイメージばっかり先行していましたね。『トーナメントが大変だ、正直言って嫌だ」みたいな意見が多かった』。

だが実際に本番を迎えてハウスキャディーが17人出ると、状況は一変する。

「一人一人話を聞くと『楽しかった』とか『確かに大変だったけどもいい経験になった』とか、プラスの意見ばっかりで、そこが本当にやってよかったというか。蓋を開けるとやっぱり興味を持ってくれてる子とか、たくさんいて真剣に取り組んでコース内でも手を振ると手を振り返してくれたりとか、そんな余裕あるんだなと思いながらも、楽しんでいる雰囲気も感じたんで、そこが安心しましたね」。

実際、木下裕太のキャディーを務めた竹中若奈さんは
「初日、2日目は『失敗したらどうしよう』と思い、緊張してあまり眠れなかった」というが3日目にして「楽しかった」と笑みを浮かべた。トーナメントの華やかな雰囲気にも慣れ、周りを見る余裕も生まれたようだ。


有馬ロイヤルでキャディーのアルバイトをしていた松本凌や、現在も関西大学4年でアマチュアとして出場している真鍋和馬も「学生時代から2人とも関西大学時代のキャプテンとして」接してきた。
それだけに松本のデビュー初日、スタートアナウンスで名前を聞かされた時には「泣きそうになった」。

 伊藤の願いはキャディーが無事に4日間を終えてくれることと、松本、真鍋の好フィニッシュ。これが達成されたとき、ようやく安どの心境が訪れるはずだ。

 

 

清水大成 3日目

3日目20アンダーにスコアを伸ばし、単独首位に立ったのが清水。
今年の関西オープンでも2位と1打差のトップで最終日を迎えたが、結局3位に終わっている。それだけに「難しいですね」と語ったが、そこで味わった悔しい敗戦の経験を生かすチャンスが訪れたのも事実。
「流れを待ってばかりではいけない時も来るとは思うので、普段通りというか自分のプレースタイルで出来たらいいと思います」。
その言葉通りにプレー出来れば、優勝はおのずと転がり込んでくるはずだ。

 

取材▪構成=日本ゴルフジャーナリスト協会会長▪小川朗
写真▪小中村政一

 

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