有馬ロイヤルゴルフクラブは日本が誇る名匠・上田治によるロイヤルコース、そして世界にその名を響かせるロバート・ボン・ヘギーによるノーブルコースで構成されるが、それぞれの18ホールにはまったく違った個性があり、同じコースとは思えないほどだ。おそらく、ビッグトーナメントが開催されたロイヤルコースに馴染みのあるゴルファーは多いと思うので、まずノーブルコースから紹介していくことにしよう。
日本を代表するコース設計家・上田治氏の手により有馬ロイヤルゴルフクラブが開場したのが1972年。わずか15年後の1987年には日本オープンが開催されるなど、名門クラブとしての地位を不動にした同クラブは1995年、新たな挑戦として「光と影の魔術師」と呼ばれるロバート・ボン・ヘギー氏による18ホールを追加。四季の変化、時刻の推移によって千変万化するコースの陰影を巧みに操った、造形的にも戦略的にも人々を魅了する36ホールへと昇華したのだった。
有馬ロイヤルゴルフクラブは日本が誇る名匠・上田治によるロイヤルコース、そして世界にその名を響かせるロバート・ボン・ヘギーによるノーブルコースで構成されるが、それぞれの18ホールにはまったく違った個性があり、同じコースとは思えないほどだ。おそらく、ビッグトーナメントが開催されたロイヤルコースに馴染みのあるゴルファーは多いと思うので、まずノーブルコースから紹介していくことにしよう。
設計者のロバート・ボン・ヘギーは「光と影の魔術師」という別名を持ち、全世界に250を超える作品を残している人物。日本で最も知られているのは『トランプナショナル・ドラール・ブルーモンスターコース』で、文字通り難攻不落のモンスターコースだ。ボン・ヘギーが他の設計家と異なるのは、コマーシャルアーティスト(商業芸術家)として活動した後に大学の農学部で学び、コース設計の道に入ったという経歴だ。学費を稼ぐためにアウトドア雑誌で広告デザインの仕事をしたり、「マルボロ・マン」としてテレビコマーシャルに出演していたというから、アーティストとしての才能に恵まれたハンサムボーイだったのだろう。
異色ともいえるそのキャリアは彼の作品に独特の作風を与えることになる。すなわち、景観を切り取ったときのインパクトだ。広告は一瞬にして見る者の心をとらえなければならないし、ビジュアルの美しさやシズル感がマストだが、そのことを知り尽くしているボン・ヘギーは当然のことながら、コース造りに際してもその手法を持ち込んだのだ。ゆえに彼の生み出すコースは陰影によって大地の輪郭が描き出され、池やクリークを効果的に配することで瑞々しさが表現されている。そしてどこから見ても、その景観はドラマティックだ。
加えて、人間の心理を巧みに突いてくる戦略性を兼ね備えているところも、この設計家が非凡たる所以。「美しいバラには棘がある」ではないが、随所にゴルファーを崩しにかかる仕掛けが施されており、それと気付かないうちにボールをハザードに打ち込んでしまうこともたびたびだ。
その思想が最も顕著に表れているのが終盤の3ホール。16番のパー5はレダングリーンの左手前が池でガードされているが、この池が2オンを狙うショットを呑み込むために待ち受けているのはもちろんだが、レイアップした3打目も油断はできない。なぜならフックボールを誘う前上がりの斜面になっているからだ。このホールで左を警戒させておきながら、次のパー3では右に池を配し、ゴルファーを惑わせるのがボン・ヘギーの罠。前のホールで逃げ球のフェードを打っていたならば、同じ球を打てば池につかまるし、それを嫌えばボールはグリーンの左に集まる。しかし左から右への急な傾斜を作ってあるから、左からのアプローチは寄らないのだ。となると、17番のティショットは16番の2打目3打目と併せて考えなければならないことになる。
さらに18番は左サイドのOBがプレッシャーをかけてくるので、17番でフックボールを打った感覚が残っていると非常に気持ちが悪い。右に逃げるとプレーディスタンスはどんどん増えてゆき、バンカーも待ち構えている。こうして揺さぶりをかけてくるコースにどう立ち向かうかが腕の見せ所。ゴルファーとしての真価が問われる3ホールとなるだろう。
このように、ここでのプレーがタフであることは間違いないが、そんなことは気にならないほどの荘厳さがある。スタートホールの1番はグリーン周りの造形が劇的でいきなり心を鷲掴みにされるようだし、バンカーに囲まれた7番のパー3は一度見たら決して忘れない絶景だ。1つとして似たホールはなく、それぞれのホールの趣向に驚いているうちに最終ホールに辿り着いてしまうだろう。そして最後のパットを沈めた瞬間、必ずまた挑戦したいと思うはずだ。
さて、もう一方のロイヤルコースは上田治の設計だが、こちらの経歴もまた面白い。上田治は京都大学農学部在学中、チャールズ・ヒュー・アリソンが廣野ゴルフクラブを設計した際に、芝の管理助手として造成に加わったことでコース設計の道に入り、廣野のグリーンキーパーと支配人を歴任した人物だ。これだけなら想定の範囲だろうが、若き日の上田は、旧制茨木中学在学中に背泳ぎで日本記録を樹立しているトップアスリートだったのだ。文武両道の青年が「アリソン」という才能と出会うことで刺激され、コース設計の面白さに目覚めたことは想像に難くない。昭和11年のベルリンオリンピックでは水泳競技の審判員として参加しているが、帰国の途中、日本ゴルフ協会の委嘱により英国中心にコースを視察してきたというから、ここでもまたホンモノのリンクスに触れ、インスピレーションを高めたのだろう。帰国後は英国のテイストを採り入れた名作を次々と誕生させるようになる。ロイヤルコースは設計家として円熟を究めた頃の作品だ。
上田が英国から持ち帰ったものは、ノースベリック西15番ホールの「レダン」グリーンであり、セントアンドリュースオールドコース14番の「ヘルバンカー」であった。それらの印象はかなり強かったのだろう。初期の作品にはその構造や思想をそのまま再現する傾向が見られるが、時と共に設計家自身のテイストが加えられていき、独自のスタイルが完成することになる。「レダン」は原型のままのレダンではなく、上田流のレダンになったのだ。
14番パー3などはまさにそれで、「奥に向かって傾斜する細長いグリーンがティグラウンドに対して斜め45度に配置され、その手前がバンカーでガードされている」というレダンの基本を踏襲しながらも、グリーンの入り口に手前に向かって下る急勾配をつけたり、左サイドには大きな窪みを作っている。これによってボールの転がりは複雑化し、ピンポジションによって攻略ルートが大幅に変わるという広がりが生まれているのだ。センターから奥のピンに対してはグリーン奥のいわゆる「バックドア」からの攻め方が有効だが、ひとたびピンが手前に切られると、ピンをオーバーした場所から2打で収めることは至難の技となる。この場合はフロントドアからの攻めが有効となり、グリーンオンさせることが必ずしも正解ではなくなるのだ。18番のグリーンにもこの「入り口の急勾配」が採用されており、手前のピンに対してタッチの合わないボールはスロープを転がり落ちていくことになる。
ここでのプレーを面白くしているのは間違いなくグリーンであり、どのグリーンも遠目にはフラットに見えるが、近づいてみると段差があったり、複雑なアンジュレーションがつけられている。その形状には必ず意味があり、そして18ホールどれとして似ているものがない。さらに部分的な砲台形状によって、ピンを攻めるボールに対してのリスクをしっかりと与えているのが特徴的だ。すなわちグリーンの入り口付近にボールを置いておけばアプローチはやさしいが、ピンを攻めてグリーンを外すと、クッションを使えない砲台の法面と、落下したボールを走らせる傾斜によってピンに寄せることが難しくなる。グリーンの形状を頭に入れた上でプレーしないと、グリーン周りまで運んでも簡単にボギーになるし、乗せても3パットの憂き目を見ることになる。「ボギーマン」にはやさしいが、「スクラッチプレーヤー」には厳しい、そんな18ホールだ。
プレーをしていて感じるのは、設計家の見識の高さだけでなく、おそらく上田自身も優れたプレーヤーだったのではないかという仮説だ。トップアスリートで、しかも廣野の支配人を長く務めたことを思えば、かなりの腕前のゴルファーだったと想像することができるが、集大成として造ったロイヤルコースには「攻略プランを立てることこそがこのゲームの醍醐味であり、ヘルバンカーほど深いバンカーは造らなくても、視覚的に過度な恐怖を与えなくても、面白いコースは作れるのだ」というベテランのメッセージが籠められているような気がするのである。
かくて、壮大なスペクタクルのノーブルコースと、ミステリーの傑作のようなロイヤルコースはそれぞれにまったく違った味わいを持つが、ゴルフの神髄に触れることができるという点で共通である。1打1打は別物のようで繋がっており、次の1打、そのまた次の1打を想定しながらスイングのバランスをとっていく必要性を痛感させられるノーブルコース、そしてロイヤルコースはピンポジションによって変わる攻略ルートを推理し見つけ出す面白さを与えてくれる。「1粒で2度美味しい」ではないが、両方のコースをプレーできることは幸せだし、自分がすべきことをよく考えてから1打を放っていれば、一端のゴルファーとして育ててもらえるはずである。
また、働く人々のホスピタリティの高さも有馬ロイヤルゴルフクラブの魅力であることを付け加えておきたい。キャディさんは勤続年数にかかわらずコースを熟知し、的確かつ親身なアドバイスを与えてくれるし、クラブハウスで働くス タッフの対応もきめ細やかだ。幸運にもプレーする機会を得た日の昼食時、同伴競技者がかつ丼を食べるためのスプーンを所望したところ、係の女性は数種類のレンゲを持ってきて「どれにいたしましょうか?」と心からの笑顔を向けてくれた。こんな心遣いが当たり前のようにできる人たちがいるのだから、ここで過ごす時間が楽しくないわけがない。
会員種別 | 正会員 [個人・法人] |
週日会員 [個人・法人] |
利用 可能日 |
全日 | 月〜土曜日 |
年会費 | 79,200円 (税込) |
39,600円 (税込) |
名義 変更料 |
770,000円 (税込) |
385,000円 (税込) |
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